Policy Insight No.1

欧州グリーンディールと加速化する

気候・エネルギー政策

European Green Deal and EU’s Climate and Energy Policies

ディレクター
大木孝拓

ポイント

本稿では,2050年カーボン・ニュートラル実現に向けた欧州連合(EU)の成長戦略である「欧州グリーンディール」(European Green Deal)を取り上げ,フォン・デア・ライエン欧州委員長就任以降欧州全体で加速化している脱炭素化の政策的な動き及びその影響について考察しています.

1)「欧州グリーンディール」は,脱炭素化と経済成長の両立を図る欧州の長期的成長戦略かつ政策ロードマップである.

2)現在欧州委員会は,建物や産業,運輸といった各部門の重要政策の見直しを実施している.

3)日系企業は,欧州気候・エネルギー政策動向へ能動的に関与していくことが重要

Summary

This article focuses on the European Green Deal that was launched in December 2019 and sets a long-term and ambitious growth strategy in the context of achieving carbon neutrality by 2050. The EU’s policy actions towards decarbonisation has been accelerating since the launch of the Green Deal, and this short paper analyses potential impacts of these policy developments.

1) European Green Deal sets a long-term growth strategy that aims to strike the balance between economic growth and decarbonisation by the middle of the century.

2) Currently, the European Commission is revising its climate and energy policies in key sectors, such as buildings, industry and transport.

3) It is important for Japanese enterprises to closely follow these regulatory trends and actively engage in relevant policy-making processes.

欧州グリーンディール概要

2019年12月に発足したフォン・デア・ライエン欧州委員長が,当初の政治指針に則り,2050年迄にEU域内の温室効果ガス(GHG)排出をゼロにする「欧州グリーンディール」(以下EGD)を発表したことは記憶に新しい.「Climate emergency(気候非常事態)」という言葉が広がりを見せる中,世界に先駆けて, 脱炭素化と経済成長の両立を図る長期的かつ野心的な成長戦略を示したのである.EGDは,カーボン・ニュートラルな経済への移行のための8つ優先的取組分野やそれを可能とする1兆ユーロ規模(今後10年)のファイナンス,研究やイノベーションの促進,国際リーダーシップ,人々への影響の軽減を睨んだ「公正なメカニズム」(Just Transition Mechanism」)等,EU政治経済の在り方を根本から捉えなおす戦略となっており,輸送、エネルギー、農業、産業(製鉄、セメント、ICT、繊維、化学)など全経済部門における具体的な政策取組を網羅した政策ロードマップもあわせて提示している(下記図を参照).

気候・エネルギー政策検討の加速化

EGDにて示した戦略に基づき,欧州委員会は様々な政策づくりを実施してきている.例えば,昨年3月に公表した「欧州気候法」(European Climate Act)案が挙げられる.事前アセスやステークホルダーからの意見公募を踏まえて起案された本案は,2050年カーボン・ニュートラルの義務化や2030‐50年軸の中長期戦略の策定,加盟各国の政策実施状況の定期的アセスや調整等を盛り込んだ内容となっており,現在通常立法手続きに基づいて政策審議中である.

昨年9月には,現行欧州委員長による初の施政方針演説State of the EU Address)にて,2030年の欧州GHG削減目標を現行の40%から55%への引き上げること,そして2021年夏迄に全ての関連法規を見直すことを宣言している.これを受け欧州委員会は,欧州全体の課題となっている既存建物分野の省エネ改善を睨んだ戦略「リノベーション・ウェーブ」の公表や,省エネ目標やエネルギー供給者義務制度等を含む加盟国の省エネ政策を規定する「エネルギー効率指令」(EED)の見直し,EU自動車燃費規制(CO2 Emission Performance Standards)の厳格化の検討の他,発電や産業,航空部門を中心にEU GHG総排出量の45%をカバーする欧州排出権取引制度EU-ETS)の見直し等に向け,既に動き出している.中でも,気候野心レベル引き上げによる域内産業への影響を緩和する手段として,輸入製品の含有する炭素量に応じて価格を調整する炭素国境調整メカニズムに関する議論がとりわけ注目を浴びつつある.

欧州気候・エネルギー政策動向への能動的関与が重要

欧州におけるこれら野心的な気候・エネルギーの取組は,様々な方面に大きな影響を及ぼし得ることから,能動的に政策動向をフォローし,必要に応じて関与していくことが重要となる.特に欧州に生産拠点を設けている企業,欧州市場に域外から商品を輸出している企業には,各種関連規制のさらなる厳格化及び加速化により,コーポレート戦略や商品開発戦略等の変更を迫られる等,直接的な影響を被るリスクがあることから,上位政策動向からセクター別の具体的施策にかけて幅広く政策動向をキャッチし,社内のしかるべき部署にインプットし,必要に応じ働きかけを行っていく必要がある. また,欧州市場を主戦場としない企業にとっても,欧州の政策動向を積極的にフォローしていくことは,中長期的な観点から重要となる.政治科学の分野では「政策拡散」(Policy Diffusion)という理論が存在するが,一国で実施されている先進的な政策取組は,国外に伝播することはこれまであらゆる分野で実証されており,実際欧州における先進的なカーボン・ニュートラルな考え方やアプローチは,既に世界の各地で議論を巻き起こしている.気候変動枠組み条約(UNFCCC)下締約国会議(COP)やG7/8およびG20等の国際的な対話枠組は無論のこと,2国間対談等でも必ず気候・エネルギー分野は重要なアジェンダとなる.また,各国政策担当者は,IEA等の国際機関下のより技術的な対話枠組を利用して不断に情報を交換している.また,政権交代を経験したアメリカでも,気候問題に前向きなバイデン政権が野心的な気候変動対策を計画しており,また中国等のような経済新興国の中にも,今世紀半ばをめどに脱炭素化宣言をする国が表れ始めている.日本政府も昨年12月に「グリーン成長戦略」を策定,公表している.このように様々な国・地域が気候変動対策に前向きになる中,その長期的なビジョンをしっかりと具体的な政策論議に落とし込みつつある点で,欧州は先導的な役割を担っているといえよう.その欧州での気候・エネルギー政策事情をしっかりとフォローし,能動的に関与していくことが,世界全体の脱炭素化の動きやその将来的な影響を把握する近道となる

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