Policy Insight No.5

EUタクソノミーと直近の政策的動き

EU Taxonomy and Recent Policy Developments

ディレクター
大木孝拓

ポイント

本稿では,近年気運が高まりつつあるサステイナブル・ファイナンスについて,特にEUタクソノミー法規を巡る一連の政策的動きに関して深堀します.欧州グリーンディールにて脱炭素化へ向けた様々な施策が提案されましたが,それを実行に移すためには多大な資金が必要となることから,各国政府の公的投資や年金ファンド等民間投資がより低炭素なクリーン・テクノロジーに流れるよう,欧州はここ近年投資環境の改善に取り組んでいます.そこで本稿は,欧州が近年導入したEUタクソノミー法規を中心にこれらの政策的動きについて概観します.

1)欧州グリーンディールは,脱炭素化を達成する上で,欧州全体のGDPの1.8%にあたる毎年2600憶ユーロもの追加投資が必要と明記.

2)EUタクソノミーは,投資先となる経済活動がサステイナブルか否かをカテゴライズする仕組み.

3)EUタクソノミーは,サステイナブル投資とみなされるための4つの要件を提示しているが詳細は今後公表される細則で決定される.

Summary

This article explains ongoing discussions on sustainable finance and taxonomy in Europe, which is gaining rising political attention in the context of decarbonisation and clean energy transition. European Green Deal has put forward a series of policy measures for the transition, but all of these measures require massive investments in clean technologies and infrastructures. Europe has set a policy framework to direct investment flows from national governments and the private sector into those cleaner technologies. This short paper analyses recent policy development for the EU’s taxonomy.

1) European Green Deal sets 26 billion euros annually as the amount of investments needed to achieve decarbonisation.

2) EU taxonomy is a framework that clearly differentiates investments from the sustainability angle.

3) the EU taxonomy regulation sets a set of four broad criteria for sustainable investments, but details will be set in upcoming delegated acts.

脱炭素化におけるサステイナブル・ファイナンスの役割

2019年12月に欧州委員会が公表した成長戦略「欧州グリーンディール」は,EUのパリ協定に対するコミットメントを実行に移すための気候・エネルギー戦略であり,欧州社会・経済の変容を促すための8つの政策とともに,かような取組を実現するためのファイナンスに大きな焦点があてられた.そこでは,欧州全体のGDPの1.8%にあたる毎年2600憶ユーロもの追加投資が必要と明記され,そのために,EU排出権取引制度下における排出権オークション等EUレベルでの財源確保や既存EU予算の気候変動対策への優先的割当(30%)の他,加盟各国予算や各種補助金などの「グリーン」化や税制改革,Invest EUプログラム等を通じた欧州投資銀行や国際開発金融機関,民間セクターとの共闘等が提唱されている.そして,環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点を取り入れたサステイナブル・ファイナンスを促進するための施策の一つとして,欧州タクソノミー・システムの設立が,欧州グリーンディールでも言及された.

欧州タクソノミーは,投資先となる経済活動がサステイナブルか否かをカテゴライズする仕組みであり,その法制化に向けた政策的な動きは,ユンカー欧州委員会が2018年5月に公表したサステイナブル・ファイナンス政策パッケージに遡る.タクソノミー設立の他,投資家に対するESG関連の情報開示義務,投資先となる企業のカーボン・フットプリントの相互比較を可能とするベンチマーク・システムの確立等も盛り込んだ本政策パッケージには,通常立法手続きに基づき,欧州議会および加盟国議会にて審議が開始され,2019年末の新欧州委員会発足を経て,2020年6月に法制化されている.

水素は現在,製油所における石油精製や肥料製造(アンモニア)の他,限定的ながら半導体や光ファイバー,ステンレス等の工業製品生産が主な用途であり,世界全体の需要はおおよそ年間70百万トンで推移,世界総エネルギー需要2%を占める.水素は利用時にCO2を排出せず,燃料電池を通じて電気や熱エネルギーも供給可能であることから,2050年脱炭素化へ向けた政策的な動きが世界中で加速化する中で,発電から運輸,製鉄等の産業等,様々な分野において化石燃料の代替やエネルギー貯蔵手段として期待されている.なお,水素は,CO2排出の多い天然ガス由来のグレー水素,再エネ由来の電力を使用した水電解由来のグリーン水素, 化石燃料由来であるがCCUSを併用して製造するブルー水素に分類され,現時点ではグレー水素が支配的となっている.

Environment, Social, Governance (ESG)

出典:欧州委員会ファクトシート

EUタクソノミー法規の概要

2020年6月に公表されたEUタクソノミー法規(Regulation 2020/852)は,サステイナブルと分類される経済活動を明確化するとともに,投資活動の情報開示により透明性を確保することで,各種投資家や金融機関によるサステイナブル・ファイナンスを加速化することを目的としている.当該法規は,経済活動が環境的にサステイナブルとみなされるための4つの要件を規定している:

  • 6つの環境目標の内,少なくとも1つ以上の目標に貢献すること
  • 6つの環境目標のいずれにも著しい害を及ぼさないこと
  • OECD多国籍企業行動指針国連のビジネスと人権に関する指導原則等国際的な行動指針や原則を最低限担保していること(Minimum safeguards)
  • 上述環境要件を満たしているかの判断基準等を決める欧州委員会が今後設定する各種技術スクリーニング要件(Technical Screening Criteria)を満たすこと

EUタクソノミー法規における6つの環境目標

出典:欧州委員会ファクトシート

 また,EUタクソノミー法規はEU域内の投資家や年金ファンド等「金融市場参加者」に対し,取り扱う金融商品が,どの環境目標に寄与するか,金融商品総額の内何割がその目標に寄与するか等のサステイナビリティ関連情報の開示を求める透明性要件を課している.さらに欧州非財務情報開示指令(Directive 2013/34/EU)下で情報開示義務を課されている従業員500人以上の企業に対しても,環境的にサステイナブル経済活動による売上や資本支出及び運営支出の割合の開示請求を課している.これら情報開示要件は,2022年に適用開始となり,2021年分の情報開示が求められる.

現在の動きと今後の展望

2018年のサステイナブル・ファイナンス政策パッケージ公表以降,欧州諸機関で長らく議論されてきたEUタクソノミー法規が2020年にようやく制定され,現在欧州委員会は,その詳細な運用を決める各種細則に取り掛かっている.2018年7月に設立されたサステイナブル・ファイナンスに関する専門家グループ(TEG)が公表した最終レポートパブコメの結果を踏まえ, 2020年11月に欧州委員会が上述の技術スクリーニング要件に関する細則案を公表したが,アルミや原材料メーカー,オイルメーカーなど各種産業界の他,本来加盟国権限であるエネルギー・ミックスに大きく踏み込む内容となっている当細則案に懸念を示す加盟国も出てきているのが現状である.また石炭や石油に比べ比較的排出係数は軽いものの,化石燃料であることには変わりのない天然ガスの扱いを巡って加盟国間で大きな意見の隔たりがある.また,原子力発電の扱いについても引き続き議論が行われている.  以上のように,気候変動対策及びエネルギー転換に向けた政策的な動きが加速化する欧州において,サステイナブル・ファイナンスの分野の法整備が急速に進みつつある.ここ数年EUは,タクソノミー法規の他,政府や企業が環境関連の事業遂行のために発行するグリーンボンドに関する欧州共通のルール作りや気候変動対策に関する企業情報開示のための欧州委員会ガイドライン,金融取引におけるサステイナビリティ関連情報開示法規(Regulation 2019/2088),世銀やIMF,世界の主要国を巻き込んだサステイナブル・ファイナンスに関する国際的な議論枠組みであるIPSF(International Platform on Sustainable Finance)の立上げ等,各種施策を精力的に打ち出してきており,欧州の投資・金融業界も投資判断においてESGの観点を取り入れざるを得ない状況になりつつある.今後EU域内に限らず,世界的にも,従来の金融及び投資へのESG統合が進んでいくものと予想され,EUタクソノミー法規の対象となる企業は無論の事,これらサステイナブル・ファイナンスやEUタクソノミーの動きは今後国境をまたいで様々なセクターにおける経済活動に影響を及ぼしていくものと考えられる

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